詩 poetry

くじら

鯨に乗って海へ出かけたい 海の遠くの静かなところで 鯨の上で月を見る ため息 ひとつ 空は静か 風が吹く 元に戻れるかどうか誰も知らない

遠いむかし昔の涙を今 思い浮かべるとまるで宝石のよう たとえそれがその時悲しい色でも 悲しい色はうつくしい色 むかしむかし

ベートーヴェン好きの元に生まれたバッハ好きの娘

あるところにベートーヴェンを好きな人間が居た。重い雲が溶けている暗い空の元、車を走らせ沼を眺めに行くような男だった。男は娘を持った。娘はバッハ好きに育った。なぜ彼のような人生の辛さを芯に持ち続けることがまるで信念のような人間の元で、そこと…

春雨

「はるさめがすきよ。」「美味しいし、きれい。」「雨に似ているね。」「そう、雨に似ている。」「静かな明け方の雨。」「孤独な夜の10時の雨、空は10時なのに少し明るくて青い。」「やわらかな雨」「やわらかな雨」

透明

透明になってしまったわたしはもう戻れない身体の中に紡がれていた綺麗な糸は溶けてしまったわたしの意思とは別に動くわたしの体液に透明な眼球で夕空を見るとても綺麗な色を反射するものがわたしにはなくなってしまった純粋な夕空を見るなんて綺麗なのかと…

薄いセロファン

薄いセロファンが重なるあいだにはほのかに 空気の層気持ちの良い温度ではいってる青い透明なセロファンうす紫の透明なのもひとつ重なり合っている少しのずれのリズムを歌っている

二重奏

低い音で和音が鳴り響いている川その和音はやがて黒い塔となる二つの塔は高く長く空に立ってわたしを見ている忘れているものはないのかと問いかけてくるその問いはまたいつのまにか低い暗い和音となってわたしの耳を震わせている

熟成させる

何もしていないように見えても、中で素敵なものが発酵熟成されている何も言葉を紡がなくとも心の中になにかが宿って成長している見えていないけれどきっと何かがあるので、そういう時はつつかずにそっとしておくのがよい何も見えない土の地下では、種からま…

永遠の恋みたいなもの

永遠を手に入れた。その材料は以下の通りだ。少しだけの興味のかけら、沈黙、距離と時間。じっさい恋をしていなくてもこうすれば僕らは永遠の恋を手に入れることができる。

会話

「よき夜を」「よき夜風を」「ごきげんよう」「ごきげんよう」「それとひとつ、よき漆黒と静寂、そして静かな夜明けを」

フランス組曲の2番と3番のように

青いろ透明ないろぬるい空気が掌の肌に触れる心臓あたりに吹くやわらかな風耳の産毛睫毛についた朝つゆ

円周率

円周率は永遠だけれどわたしは有限 あなたもぜんぶ有限すべてにサヨナラがあるのを私たちは見ないフリをして月火水木金土日を過ごしている

11

雨の中 月の居る夜にしとしと 濡れながら月の光でほのかに青白く光ながらひらひら飛んでいるそれをマンションの29階に住む男の子が望遠鏡でのぞいている彼女は彼の唯一のともだち永遠に語り合うことのない親友月の晩にだけ会えるともだち

雨のくじら

雨の日鯨の鳴き声のような音が聞こえる雨が降る空は全体が海になりこの部屋でわたしは海にもぐっている遠くのほうから鯨の声が聴こえる暗い海のなかでゆっくり鯨が泳ぐ水の振動が音としてわたしの鼓膜を撫でる

20191003

キリヤ先生拝啓 本当に秋が今もう目の前まできましたね。キリヤ先生お元気でしょうか。私は最近、メダカを飼いはじめました。たぶん、メスです。私と同じ。いくぶん気が強いように見受けられます。私と同じ。キリヤ先生は今どこにいるのですか。私は、飛行機…

メロンソーダを飲むとき3

とうめいのガラスにみどり色が光っています舌にぱちぱちとソーダ深夜のブランコと月の下のまっ黒い小川

メロンソーダを飲むとき2

17歳のわたしはメロンソーダを飲んでいま夏だったか 冬だったかしらひどく全てのことに怒っていて(地球上で起こる全てのことと人たちに対して。虫に対しても怒っていたかもしれない。)--

メロンソーダを飲むとき1

メロンソーダを飲むとき誰かのことを思い出すでもそれが誰なのか思い出せない顔も朧げにぼやけていて声も思い出せないしもしかしたらそれは今までの私のなかの想い出のすべての人たちが混ざって混ざって割って1になった誰でもないのかもしれないわたしは懐か…

同じガラスを見ている

●おなじガラスをみている●「このガラスを見てください。色という事実は存在せず色を見て判断するあなただけが存在しているのですそしてあなたが見ているわたしもまた、まぼろしですでも、心は実在するのです。しかし残念ですがこの私の心の成分分析証明は出…

まぼろし

この世界がたまにあまりにも美しいので私はひとり泣くことがある私が好きなあの人もちょっと心配なあの人も私でさえもいつかこの世を去る時がきて後に残るのは何もないだろうこの美しさを残しておく術はなく、花が枯れて土に戻るようにそれの自然をただ眺め…

資格

月へ恋をする資格を手にするためにぼくは夢のような色のついたことばの歌を口から出してあるいてゆこうまぶたを閉じて愛が見えるようになる資格を得るためにぼくはノートに自分にしかわからない秘密の記録を書いて、それをこっそりと隠し続けよう知らない誰…

燃えろたましい

勝手に弾けてろ

キリヤ先生、お久しぶりです。

キリヤ先生拝啓最近、夕方におひさまが落ちた頃になると、秋の風の匂いが立つようになってきましたね。お元気になさっていますか。私は最近、とても大きなマッキントッシュのパソコンを買ったので、今日はその大きすぎるパソコンからお便りしています。それ…

それぞれの空

君と僕 それぞれの空は違う色をしている同じ時間に存在していても。同じ時間に存在するとしても、僕たちはひとつの存在にはなり得ない。どこまでも孤独はつづいていく。空の色は違うけれど、隣でその感想を言い合うことはできる。それが唯一僕たちに与えられ…

先にあるもの、ほしいもの見たいもの見えそうになる感覚のする道見えない道 でもおそらくそちらにこそ自分の道ができるであろう道ひらすらに自分の道をいく他にはない誰にも言わずにたった1人で宣言もしないで

その起源と履歴

五月の予定の中の、紹介文の中にとても魅力的な言い回しがあったのでそれを記録しておくことにする。「物質にはその起源と履歴の情報が含まれていて物質史とよび、分析により読み出すことが可能である」

思いの原子

「思いの原子」 事実は小説より奇なり。自分でそういう風に生きても別に良いと思う。バイロンを読んだことなくても別にそう思っても良い。僕たちだって奇異な夢を生きて幸せと悲しみを味わってもいいのだ。果てのない自由はただただ君だけに所属する責任だ。…

愛されている樹木

「愛されている樹木は違う。とてもかわいいのだよ。一切のひねくれはなく彼らは悲しみも見たことがないのだ。しかしながら不思議に悲しみそのものをその花びらのうちに持ちうる花もいる。僕はそういう花に惹かれてしまう。僕の遺伝子が彼女を好きと言う。」

サヴァの夢をたべよ

その人の名前はサヴァといった。 私はその人に昨日の夜に出会った。 とぼとぼ歩いていて見つけたので、 連れて帰った。 その人はノルウェイから来たという。 ノルウェイの海も泳いだという、その青い眼で。 その眼で見た景色を私にも見せて欲しい。だからわ…

原子が見たい

私「原子と原子の間は空気ですか?」 E先生「いえ、ちがいますね。 それがたとえ空気だったとしても 空気も原子でできていますから。」 原子は、 境界線がある個体のようなものじゃなくて 光みたいなものなのでしょうか? 原子が見たい。 原子を見れたら、そ…