「ねぇ 君が
77歳になったところを想像してみて。
湖畔かどこかの木の長椅子で休んでいるか、
あ、君が海が好きなら砂浜でもいいよ。
君の家の庭でもいいけど
そこで平均律の1番を聴いているのを
想像してみて。」
「してみた。
それで?」
「色んな奏者がいるじゃない?
誰のがいい?
フィッシャー、リヒテル、グールド、色々。
僕はリヒテルかシフのがいい。」
「ははは、あなたって随分ふわふわで甘いのが好きよね。
私はやっぱりグールドかなあ。鋭利な角度をつけた、磨き切ったでもちょっとエキセントリックさもあるクリスタルみたいな、しかもちょっとたまに奇妙、みたいなものがすきなのよ」
「そうか。僕たちちょっとだけ嗜好が違うみたいだね。でもまあいい、僕らはバッハが好きだ。」
「うん。まあ、想像したんだけど、それで?」
「それだけ。
僕たちの77歳の平均律を想像してみるっていうだけのあそび。
楽しいだろう。」
「....。そうかもしれないわね。」