素粒子


 今は1972年、 僕は東京の国立大学で
物理の助手をしている

今日は空が曇っている
あとでブランコに乗りに行こうと思っている

空は白く
僕は素粒子のことを考えている

君がこの手紙を読むのはいつになるだろう

僕は君のことを知らない
君も僕のことを知らない

君はいま どこで
何をし どんなことに熱を上げているんだろう

僕の上の今日の空はとにかく白い
君の上は何色なのだろう


君は
どんな名前なのだろう
僕は君の名前を呼んでみたいとすこし
思う


会うことのない僕らがいつか
空で散歩でもできる未来がくるといいなと思う


互いに肉体は持たない存在として
気軽に
素粒子のことでも話しながら。


それでは

お元気で

K