色々な思い出をずっと憶えていたいと思うことがよくある。
常にそう思っているかもしれない。しかし、
自分でそう思っていたはずのものも、いつの間にか忘れて人生が進んでいってしまう。
忘れてしまった事さえ忘れてしまっていることもあるかもしれない。
たとえ私が、
私の思い出を忘れてしまっても、思い出そのものやその瞬間たちはどこかで、
永遠に残り続けていてほしいと思う。
椅子は人が座るためのものである。
いつかどこかで誰かが、あるいは私たちがその椅子に座っていただろう。
その椅子に、今は誰も座っていない。
椅子がそれだけで置かれている状況が
我々に見せてくれるのは、人の不在である。
そしてそれまでに椅子が通り過ぎてきた時間の経過全てである。
ガラスの中に入っている輝くものや、傷として椅子に刻まれたものは、私たちの生きた記録である。
ずっとずっと、椅子が、私たちの代わりにそれらを
記憶していってくれればいいと願っている。